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映像表現・芸術科学フォーラム 2018レポート 特別講演「メイキング オブ ABAL」(2)

映像表現・芸術科学フォーラム 2018レポート 特別講演「メイキング オブ ABAL」(1)から続く

 

オープンイヤーと超アナログ的な触覚演出にこだわる

「ABALシステム」でVRアトラクションを作る際、その体験空間はプレハブ小屋のような場所で制作しているという。

「プレハブ小屋というまったく先端感のない場所で作っているのですが、このシステムでVRアトラクションを作るときには同じ面積で設計していくため、広い空間が必要になるわけです」(尾小山氏)

「新しいアトラクションを作る度にその部屋の中を全部入れ替えるのですが、『MEGASTAR JOURNEY』を作るときに苦労したのが、東京タワー自体が少し歪んでいるところですね、デジタルの世界では真っ直ぐに見えるものはあくまで真っ直ぐですが、アナログの世界の場合、真っ直ぐに見えて真っ直ぐではなく少し歪んでいたりします。そのため、『自信満々に作成した画像が合わなくて、よくよく調べたら歪んでいることが判明したために真っ直ぐな画像を歪ませていく』という不思議な作業を行った覚えがあります」(金丸氏)

「ABALシステム」でどうしてこのような計測が大事なのかというと、触覚を大事にしているから。たとえば、「壁だと思って触ると本当に壁がある」というVRアトラクションなので、その位置が合わないと同システムが目指すVR体験を得られない。本物に合わせてヴァーチャルの世界の空間を作り込んでいるので、「歩いていて触ったらヴァーチャルの世界なのに本物がある」というような作り方をしているという。

 

また、「ABALシステム」ではオープンイヤーにこだわっているのも特徴だ。

「大抵のVRアトラクションでは、耳にヘッドフォンを付け外の音を遮断してVR空間を体験させています。それに対して、私たちはあえてオープンイヤーにし、周囲にスピーカーを配置して効果音はそこから鳴らしています。それで得られる最大の効果は『共感』です。たとえば、エレベーターに乗って上の階へと上昇していったとき、前にいるカップルが『うわっ、怖い!』とか『あっ、高い!』とか言った瞬間に、その他のプレイヤーにも怖いとか高いとかいう感情が確実に伝達するわけです。しかしヘッドフォンで遮音をしていると、臨場感は上がりますが周囲の感情がわからず『ここって、どうしたらいいんだろう?』とオドオドしてしまう。そこでオープンイヤーにすることにより、『ここは怖がっていいですよ』『ここは笑いましょう』と共感しやすくしているのがポイントです」(金丸氏)

 

「ABALシステム」でもう一つ特徴的といえるのが、超アナログ的な触覚演出をおこなっていることである。

「たとえば、崖の上を歩くとき、人は崖の上を歩くから怖いというよりも崖が崩れたら怖いという感覚があると思います。そこで『ABAL:DINOSAUR』では、プレイヤーの恐怖感を高めるため、崖のシーンではわざと柔らかいところを歩かせて『もしかしたらこれは崩れるのでは』という感情を抱かせる演出をしています」(尾小山氏)

「そこでは数センチの高低差を付けてあるだけなのですが、それがVRコンテンツ内の見た目では100メートルという高低差となるわけで相当な恐怖感が煽られますよね」(金丸氏)

「その他にも、VRコンテンツ内で蜘蛛の巣が張ってある場所があります。ほとんどの人は、『これは単なるCGだろうから、そのまま歩き抜けられるのだろう』と考えます。しかしそこで、顔に蜘蛛の糸のようなものが触れてビックリするわけです。実際には、ただ単に糸を何本も垂らしてあるだけですけど。最先端のVRというシステムに、お化け屋敷の仕掛けのような超アナログ的な触覚演出が仕込まれているというわけです」(尾小山氏)

 

最後に、VRは今後、体験コミュニケーションが主流となるだろうと、金丸氏は語る。

「コミュニケーション手段が文字だけのものから映画が生まれてから映像が加わり約100年以上が経っています。今はそこにVRをはじめとしたテクノロジーの進化が加わり、まったく異なる体験コミュニケーションが生まれている時代だと考えています。現状のVRはヘッドマウントディスプレイを中心としたハードウェアが注目を集めていますが、VRの本質はパッケージ化などにより『体験』を体系的に表現できるテクノロジーが誕生していることなのではないでしょうか」

「その上で言いたいことは、『ABALシステム』では体験軸をしっかり作っていることが面白い試みだと考えています。つまり、何ができるのかという技術面よりも、その上に何を載せて見せていくかというコンテンツ面に重点を置いていること。そこに価値があるわけです」(尾小山氏)

今後、「ABALシステム」では、フラットなものだけでなく、階段を上るとか吊り橋を渡るとかで高低差を組み合わせたり、遠隔地同士でジョインして一つの空間を体験できたりといったVRアトラクションも制作していきたいと二人は話す。

また、「ABALシステム」では「ヴァーチャルの世界がリアルな世界のように感じられるにはどうしたらいいのか」を追求しているため、ヴァーチャル世界の感覚がリアルな世界に戻ってきても続くよう、外部ソフトにより連続性のある体験ができるといった構想も考えているという。